【それは甘い20題】20.足りない

20.足りない

ぱち、ぱちり。
げっそりとした月を見てしまったような。
公園で通勤ラッシュの喧騒をヘッドフォンで聞かされているような。
火照った身体からスムーズに体温が奪われていくような。
ぐわん、ぐわんと足下が歪み出す。

「起きて」

右側から声がして、たたらを踏んだ。
視線を移すと、ひざにTシャツを広げている彼女と目が合う。思わず、目を細める。

ぎゅーって音がする程の、伝えようのない柔らかな、陽光が彼女を取り巻いている。

そのまま、のろのろと足下を確認するとそこには揺るぎないバルコニーのコンクリート。手には2枚のバスタオル。
建物の陰が時間と共に間延びし始めている。

—ああ、もう。

こんなにも唐突に、強烈な衝動にかられてしまうものなのか。
ドラマやアニメは所詮フィクションなのだと痛感する。
これが自然で真理なのだろう。
なんて、ただ俺の我慢が足りないだけ。

つり目がちで真っ黒な視線を浴びながら隣に腰を下ろす。
髪が、伸びていることに今気付く。
手でかきあげようとしたら、おもむろに手が伸びてきてピンで固定された。

開けた視界。覚悟が、決まる。

「俺と結婚して」
「…っ」

あかりの目がこぼれ落ちそうになっている。そりゃそうだ。俺だって想定外。
だって明日が付き合って3年目の記念日。指輪もムードも全ては明日の予定だった。本当に、至らない。だけど—

「なんて、言ったらいいのかわからないくらい愛してる。だから、俺と生きて」
「―もちろんよ」

どんなに一緒にいても、満ち足りない愛しさを。
いかなるときも分かち合って歩いていこう

【それは甘い20題】20.足りない
【確かに恋だった】より[それは甘い20題]
http://have-a.chew.jp/on_me/top.html

これにて[それは甘い20題]は完結となります。
お付き合いいただきありがとうございました。