【それは甘い20題】03.指先

03.指先

切れ長で、奥二重。
怠慢気味な飢えた肉食獣のよう。
でも垂れ気味な目尻が獰猛さを打ち消して。
薄めの唇によく似合う。

キミが髪を切った。もう3センチと言わず、全体的に。
すっきり。さっぱり。
―嬉しい。幸せ。だけど、面白くない。

彼の長髪は、離れ離れになっていた時間を象徴していた。
努力が評価されている証拠。出向してのプロジェクト。身だしなみに気を遣う余裕すらなかったんだと思う。
元々、自分の容姿には頓着しない人だったというのもあるけれど。

「今、何時」
「21時」

うわぁ。
言葉にならない声をあげながら、両手で顔全体を擦る。

「マニュキア、塗ってたんだ」

鼻をくんっと鳴らして、片手をベット脇にあった私の頭に置きながら手元を覗きこんでくる。

「その色、可愛い」

OPI A15[Dulce de Leche]
オフィスでも評判のピンクベージュ。
肌なじみがよくて主張しすぎない。
でも視線を惹く色。
きっとキミも気に入ってくれると思ってた。
―だから。

「お揃い、だよ」

柔らかな手が一瞬止まって、頭から遠のいていく。そしてキミの周りの空気が止まるのを感じた。でも、すぐに。

「うん、可愛い」

猫が伸びをしているような空気がまた流れ出す。
キミは、きっと気づいてる。
髪を切ってから私が外出を拒み気味になったこと。
ふとした瞬間にじーっとキミの顔を見てること。
そのくせに目が合うと顔ごと、そらしてしまうこと。

+α

出向先には魅力的な人がいたんじゃないか。
こちらの職場でまたモテているんじゃないか。
私はキミに、この育ちすぎた気持ちを吐露してもいいものか。

いくら、忙しかったのだとしても。
出向中、一度も連絡をくれなかったのはどうして。
妬み、嫉み、醜い思考。でもキミは。

「俺も、男避けつけたい」

そう言って左の薬指を触るから。
お揃いの指先が、ほんのり、淡く。
電灯の下でキラリと光る。

【それは甘い20題】03.指先

【確かに恋だった】より[それは甘い20題]
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