【それは甘い20題】02.3センチ

02.3センチ

「髪、切らないの」

洗面台で歯を磨いていた俺の背後。
肩上で遊び始めた髪をちょいちょい。
つまみ上げながら聞いてくる愛しい人。
俺は知っている。彼女が短髪好きだということを。

「じゃ、切って」

近くにあったハサミを掴んで、彼女の手にあてる。
俺の髪を掴んだまま固まる彼女。
つり目がちな瞳が夜のキャッツ・アイのように見開かれている。

「因みにどれ、くらい」

戸惑いながらも要望を聞いてくる。
ハサミも緩慢ながらに、俺の手から受け取って。

「3センチ」

カシャンッ

「そんな大層なことはお引き受けできません」
その目で、表情で、物語るから。
表情も口数も乏しいと評されやすい彼女。
でも、そんなのは嘘だ。だってこんなにもわかりやすい。
一瞬足りとも見逃したくない。
そう思うのに、前髪が邪魔なんだよ。

今日は、散髪に行こう。

【それは甘い20題】02.3センチ

【確かに恋だった】より[それは甘い20題]
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