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エンタメ・その他2014/07/17 12:00

【それは甘い20題】12.奪いたい

お題配布サイト【確かに恋だった】より[それは甘い20題]を元にした短編小説。

12.奪いたい

「うん、そうだね」

曇りがちな空を背景にした彼女の後ろ姿。
バルコニーにもたれかかって、右耳に受話器を持っている。
お相手はあの激情の女王様だ。

今日は久しぶりに2人揃った週末。休みであると同時に、週に一度の生鮮品買い出しの日。
早めに起きて準備をして。ランチを評判のカフェで摂ろうと話しながらいざでかけよう、そんなタイミングでかかってきた電話。

たまに思う。あの人はどこかで盗聴でもしていて俺をおちょくっているのではないかと。
もちろんそんなの、考えすぎだと思う。
けれど今から買い物に行くところだったと彼女が電話口で伝えているにも関わらず、かれこれ彼女を約1時間独占しているのはなぜだ。
―絶対、俺への嫌がらせであることは間違いない。

「お買い得品がなくなりますよー」

ソファに座って、彼女の背中に向けて弱々しい台詞を投げる。
何だかんだ、楽しそうに話している彼女の邪魔をするのは憚られるのだ。

でも、しかし、とは言え。
どんな言葉を尽くしても。
面白くないものは面白くない。
今日は俺との約束が先約だったはずだ。むしろ俺達の予定だったのだ。
それを一本の電話で邪魔されて、狂わされるなんて―。

ポーン。
時計が正午を告げる音を立てた。
俺の頭の中でも何か、音が弾けた。

外を向いていた彼女のカラダを後ろから抱きしめる。
ふぅわり。
嗅ぎ慣れたシャンプーともコロンとも違う、清潔で温かな匂いがする。
深く息を吸って、肺をその香りで満たす。
やっと息ができた気がした。

深呼吸を繰り返しながら、左手でやわやわと彼女の一番柔らかで、形のいい丘を包む。
右手でなだらかな首筋をなぞって。
徐々に頭を下げて、口で彼女の左耳を食んだ。

彼女は驚きの表情で振り返ろうとして、みじろぐ。
でも、離してあげるはずもなく。
口から舌をだして、耳に這わせる。

ビクッ。
一瞬にして身体に力が入って。
女王への応答も、徐々にままならなくなって。
笑みが深くなる自分に気づく。
我ながら―。

自力で立つのが難しくなった彼女の手から、電話を抜き取る。
耳にあてると、さすがというかなんというか。

「犬塚、私のあかりで遊ぶな」
「何いってんすか。俺のですよ」

ピッ。
有無をいわさず通話を切断して。
どうせ彼女ももう、それどころではない。

「お買い物、どうする」
「ん、い…じわる、言わないで」
「わかってるでしょう、言わせたいの」
「っ、後で、行く、だ、から、恵輔ッ」

俺の腕の中で熱に浮かされる彼女。
ほんと、堪らない。

勢い良く顎を持ち上げて。
彼女も背伸びをしてくれて。
熱い、キスを交わす。

彼女の漏らす吐息も、全て、飲み込むように。

来栖さん。あなたにも誰にも、あかりは渡さない。
ね、だからあかりも俺のこと、忘れないで。

【それは甘い20題】12_奪いたい

【確かに恋だった】より[それは甘い20題]
http://have-a.chew.jp/on_me/top.html

WRITER

越冬

越冬

脳内は常に春爛漫。そのおすそ分けが少しでもできたらいいなと、恋愛小説書いてます。丘サーファーが時流に乗ろうと「つぶやき」はじめました。書ききれなかった裏設定とかも唱えたりしてます。 【https://twitter.com/pleure1